ヘッドシェル (HOME)
(このページの製作者は 頭蓋調整、その他治療 のプラクティショナーです)
AT−LS1000 (オーディオテクニカ)
M2.6メネジを、止まりから通しに改造しています
★AT−LS1000(オーディオテクニカ)との出会い★
私のメインに使っているヘッドシェルはAT−LS1000(自重13g)です。
この製品は市場には数年しか出回らず、出荷された数量も少ないと思われるので、知らない方も多いと思います。
似た様な形状のAT−LH13(13g)、AT−LH15(15g)が数分の1の価格でしたので、普通は購入しずらい製品でしょう。
私もその存在すら良く知らなかったのですが、製造中止後、吉祥寺の第一家庭電器で店頭品が半額で売られていて、改めて形状を見るとMC−L1000にベストマッチングな事が解り購入してみました。
早速、自宅でMC−L1000を取り付け音を出すと、今までのヘッドシェルとは一線を画した実に素直で強調感の無い、しかも高域低域ともによく伸びた気持ちの良い音でした。
この違いは形状の差とは考えづらく、思い切ってメーカーに直接電話してみると、運良く開発担当の技術者と話しが出来ました。
『AT−LH13とAT−LS1000はどの様な違いが在るんでしょうか?』
『AT−LH13はAT−LS1000に対して素材からの切削量を少なくしてコストダウンした製品です。』
このやり取りで私にはピンと来るものがありました。
私は現在は頭蓋調整等の治療家ですが、当時はメーカーで機械(産業ロボット)の設計を遣っていて、この辺りは私の専門だったからです。

この答えから類推すると、LH13は押し出し成形されたL字型のチャンネル材をブツ切りにして表面を切削加工した製品なのに対し、AT−LS1000はムクのアルミ材より削り出した製品の様です。
改めてAT−LH13をじっくりと観察すると、押し出し材特有のすじが僅かに残っていますが、LS−1000にはこの様なスジはありません。
また、加工工程からコストを見積もりすると、この程度の価格差になりそうでした。

押し出し成形時のスジ
問題は製造工程の違いによる音質への影響ですが、材料に押し出し成形材を使った場合、押し出し成形時に発生した内部応力が残留歪みとして残ってしまい、カートリッジが音楽信号をピックアップする時に変調歪みが付加され、音が濁るのでは無いかと思われます。
これに対して、ムク材から削り出された製品は残留歪が少なく、これが素直で強調感の無い、高域低域ともに良く伸びた気持ちの良い音に寄与しているような気がします。
但し、以上全て私の推測です。
そこで速攻で秋葉原に駆けつけ、オーディオ専門店を捜すと、幸いな事にまだ店頭在庫が残っており、幾つか購入する事が出来ました。
ここで、少し基本的な話に戻ります。
アナログレコードを演奏するためにはレコードプレーヤーが必要ですが、レコード針の周辺は普通以下に示す3ケのパーツが組み合わさって構成されています。

カートリッジ

ヘッドシェル

トーンアーム
ヘッドシェルにネジ止め アームに簡単に着脱可能 EPA100MkUです
これらのパーツの中で、個々の製品によって一番音質の変化が大きいのがカートリッジです。
カートリッジ交換は、ヘッドシェル毎の交換が一般的で、アナログ全盛の頃は数千円から数十万円まで、色々なカートリッジが発売されており、カートリッジの交換はグレートアップの第一歩でした。
また音楽のジャンルによって、カートリッジを交換してキャラクターの変化を楽しむ事が行なわれていました。

このヘッドシェルに関しても、音質を変えてしまうパラメーターは無数にあります。
代表的な項目を挙げてみましょう。
 T、材質
 U、形状
 V、製造方法
 W、トータルでの重量
T、材質
ヘッドシェルの材質は、アルミ、マグネシウム、鉄、セラミック等がありました。
個人的には、チタンのムク材からの削り出しが音質的には最高だと思いますが、値段もアルミの10倍以上に成りそうで、現実的には無理でしょう。
チタンが良いと思われる理由は、スピーカーユニットを固定するネジの材質について試行錯誤の結果、チタンの音色がとても良かったからです。
(詳しくは スピーカー固定ネジの材質 を参照下さい)
マグネシウムは、アルミに対して比重が軽いのは利点ですが、どうも音が篭った感じで好きに成れませんでした。
鉄は、オールドタイプのオルトフォンのヘッドシェルが鉄製だったように記憶しています。
鉄は磁性体であり、カートリッジの磁界に影響を及ぼすのか、最近は使われていない様です。
セラミックについては、私は試聴した事が無いので解りませんが、カートリッジとヘッドシェルの間に挟むセラミック製のスペーサーや、オーディオ用のセラミックの脚を使ってみたところ、私の好みとは少し違う音調でした。
また、セラミックはアルミより比重が重く、材質にセラミックを使うと重量が重くなり、慣性モーメントの増加し、アームの追従性が不利になり、感度が落ちます。
実際、AT−LH13からAT−LH15にヘッドシェルを交換すると、2gの重量増ですが感度の低下により音の鮮度が後退する印象を持ちました。
しかし、MC−L1000の純正のヘッドシェルはセラミック製であり、機会があれば一度聞いてみたいと思っています。
材質については、以上のようなバリエーションがありますが、アルミが一般的なようです。
U、形状
形状と言っても特別な種類がある訳ではありません。
ただ、これは全ての工業製品に言える事で『 見た目のバランスの美しさ 』は時として本質的な性能や完成度を現していると思います。
しかるべき技術者が、時間と情熱をかけて機能的に無駄なく設計された製品は、そこに、調和のとれた美しさが醸し出されると私は思います。
例えば、ライカのカメラでレンジファインダータイプは、インダストリアルデザイン的に見ても、究極の美しさを感じます。
車の場合、カメラやオーディオほど外観の美しさが性能とは結びつきませんが、別の意味で外観の美しさはとても大事だと思います。
そして、実際、この様に外観の美しさを感じられる製品は案外少ないものです。
この感覚は、お役人の選定したグットデザインマーク等とは、本質的に異なるものだと思います。
これは、ヘッドシェルについても同じ事が言えると思います。
その意味から言うと、AT−LS1000はとても美しいと私は感じます。

もっと現実的なレベルでは、取り付けるカートリッジとの寸法的なバランスは重要です。
実際、カートリッジのMC−L1000(ビクター)をトーンアームのEPA100MkU(テクにクス)に取り付ける場合、オーディオテクニカのAT−LS1000がベストバランスでした。
この形状バランスの良さに引かれてAT−LS1000を購入しましたが、音質的にも素晴らしく、色々な発見がありました。

AT-LH13+MC-L1000

AT-LH15+MC-L1000

AT-LS1000+MC-L1000
AT-LH13+MC-L1000
AT−LH13(13g)にMC−L1000を取り付けると、円筒状のシリンダーコネクタ部分と本体との取り付け代が少なくなり、強度的に若干不安と同時にひさしの部分が若干飛び出していて、この部分が無駄になっています。
AT-LH15+MC-L1000
また、AT−LH15(15g)にMC−L1000を取り付けると、円筒状のシリンダーコネクタ部分は余裕がありますし、ひさしの部分も更に飛び出して無駄があり、強度的には文句なしですが重量が2g増加し今度はアームの追従性が不利になります。  
AT-LS1000+MC-L1000
それに対して、AT−LS1000(13g)は、円筒状のシリンダーコネクタ部分、ひさしの部分ともにピッタリで、MC−L1000をEPA−100MkU(トーンアーム)で使う場合、正にベストマッチングです。
V、製造方法
さて製造方法ですが、これには、以下の4種類があります。

 1、アルミのムク材から切削加工
 2、アルミ押し出し材から切削加工
 3、アルミ鋳造品から切削加工
 4、プレス成形品

因みに、鋳造とは、鋳型と呼ばれる型に溶かした素材を流し込み、冷やして固まってから取り出す方式です。
プレス成形とは、素材に数トンの圧力をかけ、塑性変形させて製品形状にする方式です。

鋳造からの切削加工品の一例として、オーディオテクニカのAT−LS13があります。
本体の根元部の丸い形状は、まさに鋳造ならではのものです。

AT−LS13

鋳造特有の丸い形状
プレス成形品の一例として、オーディオクラフトのAS−4PLがあります。
これも音が良いと言われ、一世を風靡したヘッドシェルです。

AS−4PL

プレス特有の折れ曲がり
アナログが最盛期の頃は、それぞれの方法が製品化されていましたが、鋳造やプレス成形の場合は押し出し材と同様に内部応力が残留歪みとして残っている事が考えられ、私のシステムには不向きの様に思われ、これ以上の試行錯誤は遣っていません。
しかし、音の好みは人それぞれで、ある程度は内部応力の在る方が音にメリハリがつき、好ましいと感じる場合が多いと思います。
以前、オーガニックのポテトチップスを食べた事がありましたが、ちょっと冴えない感じでした。
恐らく、押し出し材、鋳造品、プレス成形品、それぞれの残留歪には微妙な傾向的な違いがあると思われ、これらの違いを活かして自分の好みの音質を作り上げる楽しみがアナログにはあったと思います。

尚、後から雑誌の評論を読み返して見ると、AT−LS1000について『ベールをかぶった冴えない音』とのコメントに出会いました。
私が思うに、この評論家の試聴装置はそもそもベールをかぶっており、そこに内部応力の残っている製品を使うと変調歪みが発生しメリハリが付加され、結果的にそのベールが剥がされた様になりちょうど良かったのでは無いかと思います。
W、トータルでの重量
重量も、軽い方がトーンアームの軸受に対する負荷が少なく、感度が上がり、カートリッジの追従性は良くなりますが、軽過ぎると剛性が不足して分割振動が発生し、情報の付加や欠落が発生します。
ここで 『 情報の欠落や付加 』 と表現すると、芳しくないイメージですが、これは『個性 』とも言えるわけで決して悪いものでは無く、要はトータルのバランスで評価されるべき問題だと思います。
また、重量が重い場合は規定の針圧が確保できず、付属の補助ウェイトを付加する事が一般的ですが、補助ウェイトを追加すると軸受けに対してトータルの重量が増加し、感度が落ち、情報量が減少し、ダルい音に成ります。
ここでも、『ダルい音 』が悪いのでは無く、BGM等の場合、ダルい方が心地よいものです。
そうは言っても、この場合は標準のウェイトの後ろににブチルゴム等で小さな重りを付加して針圧を確保出来れば、それに越した事は無いと思われます。
また、トータルの重量を軽くするのなら、重りの部分を長くする方法もありますが、今度は慣性モーメントが増加し(距離の3乗で増加します)、これも感度が落ちます。
更に、重りを付加した場合、一般的な 『 ゼロバランスを取ってから針圧を付加する 方法 』 は使えませんので針圧計が必要に成ります。
要はバランスの問題になると思います。
針圧については、アナログ全盛の頃は、色々なタイプの針圧計が製品化されていて、デジタル表示の電池式の製品もあったようです。
私は、オーディオテクニカのAT-15Eaに付属していたアルミ板金製の極々簡単な針圧計を使っていますが、これで充分のようで、とても重宝しています。


付属していた針圧計