★リュート組曲 ( BWV 995〜1000) (HOME)
(このページの製作者は 頭蓋調整、その他治療 のプラクティショナーです)
ナルシソ・イエペス ( リュートによる録音 ) (独)アルヒーフ 2533 351 (P1973)
<>リュート組曲 BWV995
バッハのリュート組曲は、バッハの中では地味な感じで、他の曲に比べてレコードやCDも少ないような気がします。
ですので、私の聞いた演奏もそれほど多くはありません。
その様な中で、ナルシソ・イエペスはこのリュート組曲をほぼ同じ時期にリュートとギターで録音していますが、私はドイツアルヒーフにリュートにより録音した演奏が、演奏・録音ともに最高の1枚だと思います。
私にとってはこれ以上他の演奏家の演奏を聞いても、イエペスのリュートによる録音を上回る演奏には出会えない気がします。
私の場合、メジャーな演奏家の演奏はいまいちな場合が多いのですが、リュート組曲に関しては、メジャーと思われるイエペスがベストに感じられます。
イエペスの演奏を強いて言葉で表現すれば、テンポ、リズム、音の切れ、全てが完璧で、その様な枠の中で音楽性もきっちりと表現されており、彼はもの凄い実力をもった演奏者だと思います。
イエペスの使っているリュート、ギターについて
アルヒーフレーベルのジャケットには、彼の使っているリュートの写真が使われています。
資料によると、ウィーンの博物館にあるテオルボリュ−トに基づいて製作され、高音部の2弦分がシングルコースで2本、それ以下の12弦分がダブルコースで計24本、合計で26本の弦が張られている様です。
また、低音部の4弦は指板から外れており、解放弦となっています。
このジャケットを眺めていると、『 美しい楽器だな・・・・。 』 と伝わって来るものがあります。
同時に、私は専門ではないのでよく解らないのですが、26本もの弦のリュートを完璧に弾きこなすのは至難の業ではないでしょうか。
ギターについても、イエペスは1960年代にそれまでの6弦から10弦のギターを考案し、今回も10弦のギターで演奏しています。
ナルシソ・イエペス ( ギターによる録音 ) アンドレ・セゴビア ( ギター )
(独)グラムフォンDG2503 461 (P1974) (米)エベレスト3261 (P ? )
リュートとギターのキャラクター
イエペスは1927年の生まれで、このリュート組曲は1973年、イエペス46歳の頃の録音です。
ギターについては、同じく全曲を翌年の1974年に録音しています。
私はリュート、ギター両方とも全曲持っていますが、イエペスがリュートにより何を表現しようとしたのか、ギターにより何を表現しようとしたのか、この両方を聞いていると、よりハッキリして来るような気がします。
特に、この両方が同時期に録音された事により、より純粋にイエペスの伝えようとしたものが伝わって来る感じで、イエペスの意図もそこに在ったのではないでしょうか。
いずれにしても、とても貴重な録音だと思います。
さて、キャラクターの違いですが、どちらも素晴らしい演奏ですが、ギターの方が楽器の箱鳴りによる残響が多く、少し甘い感じ、モダンな印象を受けます。
これは、まさに好みの問題ですが、贅肉を削ぎ落としてバッハの本質に孤高に迫る感じは、リュートの方に出ていると思います。
ですので私はリュートの演奏の方が好きです。
イエペスのリュート
私は、バッハについて、イエペス以外の演奏家によるリュートの演奏も幾枚か持っています。
それらとイエペスを比べると、イエめられた強靭な『 意志 』のようなものがストレートに伝わって来ます。
これほど素晴らしい彼のリュートが無色透明となって、楽器としての存在が消えてしまう感じすらあります。
まさに、演奏とは、演奏家の意志そのものである事を改めて感じます。
これには、録音の素晴らしさも一役かっているかと思います。
勿論、もっと違った演奏、意志より感情が伝って来る演奏もあっても良い訳で、この辺りもまさに好みの問題だと思います。
セゴビアの演奏
セゴビアのバッハはBWV995はありませんが、オムニバスとして持っています。
ギターによりしばしば演奏されるBWV1000aや、有名なシャコンヌが入っています。
録音年次のデータはありませんが、恐らく1950年代だと思います。
彼の演奏からも、指先から強靭な意志が伝わって来ます。
イエペスとはキャラクターが異なりますが、これも素晴らしい演奏だと思います。
この感じは、同時代の演奏である、カークパトリック演奏の平均率やパルティータ、シゲティ演奏の無伴奏ヴァイオリンのソナタとパルティータにも感じます。
なにか時代性のようなものがあるのかも知れません。
★イエペス演奏(リュート)、BWV995の音質
イエペスがアルヒーフに録音したリュート組曲は全般的に音の鮮度は高い感じです。
長岡鉄男氏は、ホプキンソン・スミスが仏アストレーに録音したLPを優秀録音盤として推薦していますが、イエペスのアルヒーフでの録音も勝るとも劣らないクオリティだと思います。
特にBWV995の第2楽章、Allemandeの真ん中辺りで、何か機械のこすれる音が規則正しく『 カサ、カサ、カサ、・・・・・・ 』と入っている部分があります。
恐らく、録音時のテープレコーダーの回転部分のこすれる音だと思いますが、初めてこのレコードを聞いた時、てっきり私の部屋のカセットデッキが回っていると勘違いして、思わずカセットデッキに目が行ってしまいました。
これは全くの想像ですが、それほど広くない部屋でワンポイントマイクとナグラのポータブルデッキでオンマイクで録音されたのではないだろうか、そして何かの拍子でテレコの回転系のノイズがマイクに回り込んで録音されてしまったのではないだろうか?
思わずそんな情景が目に浮かびます。
ここで、ナグラのデッキについてですが、ソニーのデンスケはナグラのポータブルデッキのコピーとも言われていて、中古品ですが幾度か目にした事があります。
私は元々機械設計技術者で、本当に完成度の高いメカニズムには、その外見にも独特の美しさや、整然とした佇まいが感じられ、それは徹底的に合理性を追求するとそこにインダストリアルデザインを超えた美しさが醸し出されるとも言えますが、ナグラのデッキからもそのようなオーラを感じます。
これらは、ライカのレンジファインダーカメラや、一部のヨーロッパカーメーカーの車の外観やエンジンルームにも共通する美しさがあります。
私の思い入れそのものですが、 イエペスのリュート聞いていて 『 カサ、カサ、カサ、・・・・・ 』と言う、規則正しい小さな音が聞こえて来ると、ナグラのポータブルデッキを思い浮かべてしまいます。
リスト
・ナルシソ・イエペス(リュート)(P1973)
・ナルシソ・イエペス(ギター)(P1974)
・ホプキンソン・スミス(リュート)(P1981)
・グレゴリー・シュルコズ(リュートハープシコード)(P1985)
・アンドレ・セコビア(ギター)(P15??)
・コナード・ラゴシィニング(リュート&ギター)(P1976)